雑誌岩井圭也

小説と雑文

モラトリアム三段 <11>

 子供の頃、レゴブロックでよくピラミッドをつくった。親戚からもらったブロックは色も形もバラバラで、完成したいびつなピラミッドは妙な色使いだったが、それでも満足だった。重要なのは仕上げの作業だ。頂点に旗をかたどったブロックを置く。その瞬間、薄い胸が達成感で満たされる。

 大会名の入った横断幕を見上げていると、自然とそのいびつなピラミッドを連想した。

 北海道剣道選手権大会 兼 全日本剣道選手権大会最終予選会。

 この大会に出場するには、まず春の段別選手権で入賞しなければならない。出場者は全部で十三名。おれは三段の部二位だった。

 きたえーるの武道場に出場選手たちが続々と集まってきた。前年度の全日本出場者も揃っている。ふと、後ろから袴の腰板を叩かれた。振り向くと、坊主の特練員が薄く笑っている。慎太郎は挨拶もなく、掲示板に張り出されたリーグ表を指さした。久原、の文字。

「ついてないな」

「何が」

「戸田さんだよ」

 おれと同一ブロックには道警の戸田さんが入っている。五段の部で一位。おれよりも七つ上で、高校の頃から有名な選手だったらしい。一昨年の優勝者であり、昨年も三位に終わったものの決勝リーグに勝ち進んでいる。

「そして」

 同一ブロックにもう一人。慎太郎は指先をつつつ、とスライドさせ、自分の名前を指した。四段三位。

「やっぱりついてないな」

 ノーコメント。おれが反応しないのでつまらなくなったのか、「何か言えよ」と言い残して慎太郎は去っていった。冗談めかしていたが、やつも道警の垂れをつけて臨むのだ。下手な試合はしない。決勝リーグに進めるのは、おれと慎太郎と戸田さんのうち一人だけ。

 道着袴から私服に着替えた浅野先輩が、あたりを見回しながら近づいてきた。光沢のある薄緑のシャツ。こんな服を着て似合うのは浅野先輩くらいだ。

 先輩にはアップの相手をしてもらうためついてきてもらった。休日に足を運ばせるのは申し訳なかったが、大事な大会のアップは浅野先輩にお願いしたかった。先輩は即答で了承してくれた。いい人。

「さっき話してたの、稲田さんか。挨拶しておいたほうがいいな」

「いいですよ。もうすぐ開会式ですし」

 先輩はおれの話も聞かず、慎太郎のほうへ小走りで行ってしまった。おれも新キャプテンとして、あの気遣いを見習わなければならない。

 おれのキャプテン就任について、三年生からは意外なほど反論が出なかった。合宿最終日に浅野先輩から発表された直後は驚いていたが、表立って不満を口にする部員はいなかった。それどころか、三年の先輩たちは口々に励ましてくれた。

 あっけなく、おれは新キャプテンとして認められた。

 結局、おれが部員のことを信用していなかっただけなのだ。だから不安だった。その実、みんなちゃんと部のことを考えているし、自分なりに一生懸命やっている。つまらないことを心配するより、目の前の壁を乗り越えることだけに集中すればいい。毎日真剣に向き合ってればそれが自信につながる。宮村さんの言う通りだ。

 全日本に出場できるのは上位二名。この大会、ピラミッドの一階や二階で満足するつもりはない。やるからには頂点に旗を置くつもりだ。

 道着の襟を正し、腰板の位置を直す。丁寧に垂れをつけ、胴紐を結ぶ。道剣連の職員が間もなく開会式である旨を呼びかけている。準備は万端だ。